| «‹ July 2026 ›» | | S | M | T | W | T | F | S | | | | 1 | 2 | 3 | 4 | | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | |
|
2009 年 3 月 23 日 星期一  |
| 2009-03-23 |
分類: 未分類 |
星の流れる夜に
冷たい風が、心地よく吹き抜けて行く。潮の香りが混じっている様だ。
天気の良い昼間のうちに乾かされた草の上は、まだ太陽の暖かさが残っている。
そこに寝転がって見る夜空は、満天の、降るような星空。
「きれいだな・・・。」
キルアの口から、ため息と言葉がもれる。
今までのほとんどの時間を、家の敷地内で人殺しの技術ばかり磨いて過ごしてきた。
生まれ育ったククル-マウンテンを取り囲む暗くしめった樹海には、住む生き物も居らず
家族と執事だけに囲まれて育った。
そんな家族は皆冷たく、執事たちはどことなく機械的だ。そして自分は、感情を持たない
人形の様にただ、命令されるまま生きていた。
他人の死に触れたときにだけ、悦びを見いだすことが出来る単調な日々。
繰り返される同じ毎日の中で、時の移り変わりを感じられたのは、夜の星の動き。
だがそれは、決して安らぎをあたえてくれるものではなかった。
身体が疲れ果てて一日が終わる。空っぽの心で見上げた夜空は、魂さえ吸い込まれそうな
深淵の闇色。そんな中で、見る者に鳥肌を立たせるほど冷たく大きく、怖いくらいに輝いて
いる沢山の星。数え切れない幾つもの死の国への入り口が、獲物を待ち、罠を張ってる様な
気がした。
夜は好きじゃない・・・。
ゴンのうちに来て初めて夜の空を見上げたとき、今まで見慣れていた星空とあまりにも違う
ことに驚いた。どこか暖かさを持った、澄んだ闇。まるで細かい宝石をちりばめた様な、
海の彼方まで続く星達は、柔らかい光を放っている。
怖くはない。冷たくはない。見ていると、心が落ち着く気がした。
そのとき、星をきれいだと思った。
くじら島へ来てから、ゴンの家の�堮xで、星を眺めるのが毎夜の習慣になった気がする。
幾つかの星をつなげると一つの形になり、それぞれ名前がついている、ということを教えて
もらった。いったい、いつ誰が考えたのか、なんていう想像力だろう。
たまに星と星をつなげ、勝手に名前を考えてみる。
一人で、そして時々ゴンと一緒に。それが、とても楽しい。
自分自身で、考える、想像する、行動する。
こんな歓びを、初めて知った。
居心地の悪い、身体にまとわりつくねっとりした空気の、重い重い澱の中に囚われていた
自分の心。前も後ろも分からない、手を伸ばしても何も無い。逃れられない、ゾルディック
家の呪縛。
何も考えず、何も望まず、何も欲しがらない。ただ命じられるままに、人を殺めてきた。
当たり前の様に。
そんな生活に少し疑問と飽きが起こり、家族とケンカ別れのように家を出た。
そして、面白そうだと思い、たまたま受けたハンタ-試験で、ゴンに会った。
最初声をかけたのは、同じくらいの歳のヤツが珍しかったから。それだけだった。
しかし、いつの間にか行動を供にし、他の人間とは喋ったことが無いくらいの会話をし、
秘められたゴンの能力を感じるにつけ、自分の中に、今まで気がつかなかった別の自分が
生まれて来ているのが分かった。
いつも一人だった。それで平気だった。でも今は・・・。
ころり、と、身体の位置を変えうつ伏せになって、空に手をかざしてみる。
掌の形に、星が遮られる。
いつからだろう、肉体の操作が出来るようになったのは。
それは暗殺のプロとして、たとえ武器が無い状態でも、相手を確実に死に至らしめるための
手段。そして、動脈の位置を覚え込まされた。し損じないために。
血まみれになりながら躯を痙攣させ、水から出された魚のように口をひくつかせる。すぐ
そこまで迫っている死を拒絶するかのように、絶望的な生にしがみつこうとする。
自分が手を下した人間が屍に変わる瞬間を、笑いながら見ていた。
浴びた瞬間の返り血は、あたたかい。それが冷えてゆくにしたがって、自分の表情も凍って
ゆく。
動かなくなった死体はつまらない。もう、何の感情も湧かなかった。
「ゴンの側にいれば、いつかお前は彼を殺したくなる。殺せるか殺せないか、試したくな
る。お前は、根っからの人殺しだから。」
ハンタ-試験の時の、イルミの言葉が、頭の中で繰り返される。
「お前の天職は殺し屋なんだから。」
「・・・・。」
キルアは両方の拳を、力一杯握りしめた。気がつかないまま、血が滲んでくるほどに。
絶対に、そんなことはない。もう、人殺しはしない。
そうして、自分のやりたいことを捜すために、ゴンと一緒に旅をする。
2度目に家を出るときに誓った。絶対に仲間を�堣�らないと。
その時、心の中で別の誓いをたてた。
ゴンを守る、と。
誰にも、何にも、手を出させはしない。
ゾルディック家の呪縛から、自分を解き放ってくれたゴンを傷つける者は、許さない。
それでも、いつか本当に、ゴンを殺したいと思う時があるのだろうか。
イルミの言葉の本当の意味が、いつか解る時がくるのだろうか。
(でも・・・)
自分の胸に手をあててみる。生きている証の、心臓の鼓動が掌に伝わってくる。
もし、そうなったら・・・。
まるでそれ自体が一つの生き物の様に思えるほど、掌の中で規則的に動く心臓を感じる。
手に力を込めた。
一瞬、時が止まる。
「ふう-。」
胸から手を離す。大きく息を吐くと、またゆっくり時が流れだした。
もし、そうなったら・・・。
先に自分の命を奪うだろう。
自分より先に、ゴンを死なせはしない。
殺し屋としてはマイナスになるだろう、そんな思いを消せない自分が不思議でもあった。
伸びをした姿勢でもう一度転がり、仰向けになる。
少し視野を動かせば、全天の星空を見ることが出来る。
ふわり、と、身体を動かすごとに、草に残る太陽の暖かさに包まれた。
「あっ・・・。」
星が流れた。
消えるまでに願い事を3回言えると、それは叶うという。
これも知らなかった。ゴンに教えてもらった。
口の中でつぶやく。横に誰か居ても、聞こえないくらいの声で。
本当に叶うとは思っていない。でも、只のおまじないだとしても、星に願いをかけてみたく
なった。
自分がやりたいことは、まだ何かわからない。でもきっと見つかるだろう。
目を閉じる。
甦るのは、ゾルディック家の殺し屋としての12年間ではなく、ほんの数ヶ月間の、ゴンと
友達として出会ってからのこと。
全ての事が新鮮で、驚きで、自分には好ましく・・・。
そして、これからの事を考える。
誰にも、何にも、邪魔させはしない。
星が導いてくれる気がした、進むべき方向を。
血が滲んだ掌を、軽く組み合わせる。その手の中に何かを掴むように。
星が流れる度に、願うことは同じかもしれない。それでも、それがきっと一番叶えたいこ
とだろう。他の何者にも代え難いくらいに。
歩き続ける、絶対に見つける。そう、ゴンと一緒だから・・・。
思考が、途切れる。
優しく、睡魔がキルアの身体を呑み込んでゆく。
くじら島では必要の無い、警戒心も包み込んで。
無防備なまま、意識は眠りの国へすべるように落ちてゆく。口元に笑みをうかべたまま。
星は輝いていた。全ての人に夢を与える様に。素晴らしい未来を祝福するかの様に。
静かに時間が過ぎてゆく、静かに、夜が更けてゆく・・・。
|
|